眠る魚



眠る魚眠る魚
(2014/05/19)
坂東 眞砂子

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~あらすじ~
2011年3月11日。日本から遠く離れた南太平洋のバヌアツにも、地震による津波警報が出されていた。旅行ガイドや通訳をしながらこの島に暮らす伊都部彩実は、そのしばらく後、実父の訃報を受けて一時帰国する。放射線被害について海外メディアが報じる危機感に反比例するかのような日本の実像、また、相変わらず保守的な家族たちの思考と言動に噛み合わない思いを抱きながら日々を送るうち、「アオイロコ」という奇妙な風土病の噂を耳にする。父の遺言で、母が亡くなった後に父が交際していた女性に、代々の土地家屋を明け渡すことになり、思いのほか動揺する彩実。国に縛られない自由な生き方を望んで海外に飛び出したはずなのに、戻る場所を求めている自分に気づく。そんな折、口中の腫瘍が悪性と診断され、即刻入院となり、期せずして日本に留まることになるのだった―。


坂東眞砂子氏の遺作で、未完の絶筆。
物語の舞台は、東日本大震災、原発事故後の架空の町とされています。
作品中から主人公の実家は、立ち入り禁止区域からそう遠くない場所あたりに位置するのではないかと予想されます。

日本の「集団で一つの概念を形成している、個人性のなさ」に嫌気がさし、外国人のアンディと、父親に反対されながらもバヌアツで同棲していた主人公・彩実だが、わずか4年で破局。
そんな中起こった東日本大震災。
日本から遠く離れた地で、インターネットやテレビで流れる日本の現状。だが、この地を訪れる日本人に話を聞いてみると、「そんなにひどくはない。」と、話が食い違っているのです。今、本当は日本はどうなってしまったのか?
そんな中、父親が心臓麻痺で死去。
おっかなびっくりな感じで日本に帰ってきた彩実だが、外国で流されていた情報より「見た感じ」そんなに被害はひどくなさそうな現状ではあるものの、チェルノブイリでさえ未だに放射線の被害は無くなっていないのだから、日本は大丈夫なわけがない。見えないからといって無くなったわけではないのです。
が、実の姉やここに住む人たちの、もう線量を測る必要はない、事故はもう終わったのだという態度に、憤りを感じ、別れた男、アンディの言葉を思い出すのです。

「日本人は思考しない」と。

実際そこに住んでいる人たちに、毎日そのことを考えて暮らせと言っているわけではありませんが、放射線の話をしようとすると、臭いものに蓋をするような態度をされ、、その一方で昔からの風土病「アオイロコ」という病気(死ぬときに遺体が青く光るように見えるとその病気だそうな)は信じるのかと鼻白んでしまう彩実には、かなり共感します。
まあ、そうやって生きていかなければいけない気持ちもわからないではないですが。

そして、彩実自身、もう故郷には帰らないだろうと、バヌアツに帰ろうとした時に舌癌が見つかります。
そして病床につき、入院中にも日本の放射線の実状や政府のそのことに対する情報操作について考え、どんどん思考はマイナスな方向に向かっていくところで小説は切れています。

この小説は、原発事故を題材に、人々の精神的影響、被爆影響がかなりリアルに書かれており、私個人としては安全な場所から「頑張ろう」とか、希望的なことばっかり言っている割に具体的なことは何一つ言わないような人たちに読んでもらって危機感を実感していただきたいと思います。

私も、原発事故についてはかなり情報を集めたりして、どうして脱原発をしないのだろうかとか考えたりもしました。
彩実のように、「なんてことしてくれたんだ」と絶望感でどうしていいのかわからなくなったりもして、しかし自分ひとりではどうにもできない悲しさ。しかし、毎日仕事には行かなくてはならない日常でどうしても忘れてしまう。
目に見えないものだから、徐々に冒されていっているのかわからない。曖昧だから強く憤れない。

そしてどんどん放射線に敏感な人々の口は閉ざされ、生き残るのは気にしない人間か、原発で富を得た人間か。

この小説が、一体どういう結末で終わるつもりだったのか、最早想像するしかありませんが、主人公はこの舌癌が放射線の影響であるかもしれないと考えていたことから、手術が成功するも、再発し、自分も放射線に冒されて死んでいくが、周りはそうは取らずに、外国で生活していたせいだととって終わってしまうとかそんな終わり方かな…と。

ページの最後の部分である、
人は、とてつもない危機的事態に陥った時、ただ「信じられない」と呟きつづけることしかできないのかもしれない。たぶん、これが、思考停止と呼ばれる状態なのだろう

「眠る魚」というタイトルはこのことを指しているのかもしれません。
目を閉じることもできずに、しかし思考は停止している。これこそ今の日本の現状における警鐘ではなかろうかと。


坂東眞砂子氏は、「狗神」からずっと好きだった小説家でしたので、訃報を聞いて残念でなりません。
氏のご冥福をお祈りします。

それと、氏の「猫殺し」のエピソードは、ほとんどガセみたいですよ。
好きな作家さんがこういう書かれ方されると、悲しくなりますね。



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